池井戸 潤「かばん屋の相続」を読んで

相続ブログ

今回は池井戸 潤さんの「かばん屋の相続」を紹介します。
池井戸 潤さんと言えば、ドラマにもなった半沢直樹シリーズ「やられたらやり返す、倍返し!」で有名な方ですね。

6部の短編が納められた小説集

ご存じ半澤直樹シリーズのような震天動地な事件が数々起こる展開ではありません。
しかし主人公の銀行員と同じく脇役たちも一人一人の個性が輝き、それぞれの想いや苦悩が如実に描かれ短編ながらも読み応えのある作品です。

かばんやの相続

仕事上、相続を取り扱うからこそ、一番気になったのが第6編目「かばんやの相続」です。
初代が作り上げた事業を次の代へ継承する場面から展開していきます。

裏表紙に書かれたあらすじによると「松田かばん」の社長が急逝し、残された2人の兄弟。
会社を手伝っていた次男に生前父は「相続を放棄しろ」と語り遺言には会社の株全てを大手銀行に勤めていた長男に譲ると書かれていた。乗り込んできた長男と対峙する小倉倉太郎。父の想いはどこに?

京都「一澤帆布工業株式会社」の相続争いが小説のモデルに!

実はこの6編目は、京都のある会社の相続争いをモデルにしています。
それが、創業から100年以上の歴史がある京都の老舗カバンメーカー「一澤帆布」です。
今から約20年前に3代目社長が亡くなった後の相続をめぐり相続人の兄弟(長男と三男)は激しく対立しました。
対立のきっかけとなったのは「2通の遺言書」です。2通の遺言書のうちどちらが適用されるか?
そして兄弟の誰が会社を引継ぎ経営していくか?一澤帆布の経営自体が左右されるものでした。

2通の遺言書について(1通目)

2001年3月、3代目、一澤 信夫氏が亡くなり、顧問弁護士に預けられていた遺言書(第一の遺言書)が開封されます。
そこには自社株の67%を1983年から社長を勤める三男の信三郎夫妻に、33%を職人として会社をずっと支えてきた四男の喜久夫氏に、預貯金等は銀行員だった長男に相続させると記載されていました。(二男はすでに他界しています)
最初の遺言書には、当時社長だった三男に引き続き経営を任せるとなっていたのです。

2通の遺言書について(2通目)

ところが、2001年7月に長男、信太郎氏が別の遺言書(第二の遺言書)を預かっていたと主張してきました。

その内容は長男、信太郎氏と四男、喜久夫氏に合計62%の株を相続し、経営者だった三男、信三郎氏には今後一切経営にタッチさせず、長男が経営権を取得する内容でした。

第一の遺言書は1997年作成。第二の遺言書は2000年の作成で、作成日では第二の遺言書が有効です。
ただ、第二の遺言書の押印は、亡くなった三代目が嫌がって使うことがなかった「一沢」印が押されていたり、作成当時はすでに脳梗塞で正常な判断ができなかったのではないか?など不審点がありました。

第二の遺言書無効を求め裁判がスタート!

2001年三男の信三郎は、長男の持ってきた第二の遺言書は無効だとして裁判を起こしました。
しかし2004年、第二の遺言が無効といえる十分な証拠がないと判決が下り、三男は会社を追い出され長男が経営権を取得します。

ただ三男も黙っていません。2004年3月に有限会社一澤帆加工所を設立。
熟練職人たちも突然現れて経営権を奪った長男のやり方に反発しました。
なんと60人以上の職人全員が退職・三男の信三郎氏の新会社についていきました。

これは長男の一澤帆布工業が、もぬけの殻になってしまったということ。
技術職で長男の会社に残った四男、喜久夫氏の新たな人材に対する技術指導で、何とか鞄作りの継続・販売はできましたが、取引先だったお寺や商工会議所などの地元関係者や多くの取引先が、長男のやり方を非難しました。そして次々と契約解除し、三男の新会社と契約を結び直しました。

三男は一澤帆布の斜め向かいに店を構えて鞄の製造・販売を続けます。

三男信三郎氏の妻名義で再度訴訟開始

これを見て、長男は一澤帆布工業の代表として三男に対し、商標権の侵害だと損害賠償請求を起こします。
反対に追い出された三男は再度、妻名義で裁判を起こします。第一の遺言書に三男だけではなく、相続するのは三男夫婦とあり、妻も相続すると含まれていたためです。

この裁判によって大阪高等裁判所でから判決が出ます。
長男が持ってきた「第二の遺言書は無効である」と逆転勝訴。
2009年6月には最高裁も大阪高裁の判決を支持しました。

三男の経営復帰とその後について

2009年、三男、信三郎氏は一澤帆布工業の経営に戻りました。店の立地についても元の一澤帆布に戻り完全復活となりました。
長男から何度か提訴されますが経営権には影響はなく、日常を取り戻しています。なお、四男の喜久夫氏は、一澤帆布から独立しました。
もともと一澤帆布工業の製造の代表として長年の経験があり、数々の賞を受賞した実績があるため、独立後も人気があります。

まとめ

複数の遺言書が見つかった場合、相続人間の争いは目に見えてきます。
実際京都であった有名な「一澤帆布工業」の相続争い。
事業継承も関係し、更に相続争いが加速していきました。
相続人の色々な思惑が絡んでくる場合もあります。

「相続の準備」については、事前にできることが沢山あります。
何からスタートすればいいのか?今の自分の状態は?
不明な点があれば、一度専門家に相談することをおすすめします。
当事務所は「相続の準備」により一人一人の状況に合わせてサポートいたします。
大阪だけでなく、全国のご相談にも対応しております。

執筆:遠山 真由美(大阪市北区南森町)

(制度は投稿時点のものになりますので、ご注意ください)

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